
ここから始まるエッセイは、わたしの話しを振り返りながら、日常の小さな出来事の中に隠された大切なことをお伝えしていこうと思います。これらの話しが、あなたの日々にほんの少しでも笑顔や気づきをもたらすなら、嬉しい限りです。それでは、どうぞお楽しみくださいね。
恋の噂と駐車場の密会、食品工場のちょっとしたスリル
わたしが働いていた食品工場では、製造ラインが毎日せわしなく動いていた。機械の音に包まれながら、わたしたちも黙々と作業をこなしていたが、その裏では意外なドラマや噂話が繰り広げられていた。特に盛り上がっていたのが、職場での恋愛の噂。これが実にスリル満点なのだ。
例えば、30代の既婚者である田中課長と、若手女性社員の山本さん(仮名)。二人が「できている」という噂が工場中に広がっていた。証拠なんて全然ないが、そんな話しはあっという間に広まるものである。誰も確かめようとはしないけれど、ひそひそ話しが絶えないのだ。
田中課長は、背が高くて声も大きい、よく目立つ人だ。仕事もバリバリこなす頼もしい存在である。一方の山本さんは、化粧もせず、大人しくて真面目な女性だ。黙々と仕事に取り組む姿が印象的で、課長とは対照的なタイプであった。
はじめてそのペアの噂話しを聞いたときは、声を上げて驚いた記憶がある。接点もないのに、まさかあの二人が?って想像してみたけど、性格違い過ぎて想像ができない。そんなほどのペアだったからだ。
そんなある日、工場の仲間と一緒に焼肉を食べに行くことになった。お肉を囲んでワイワイ楽しんでいると、田中課長と山本さんも参加していた。焼肉の煙が立ち込める中、田中課長とわたしが談笑していると、友人が「山本さん、鬼の形相で睨んでたよ」と教えてくれた。完全に濡れ衣だが、どうやらこれが「嫉妬」というやつである。
友人の「鬼の形相」という表現が妙に的を得ていて、標的にされた恐怖よりも面白おかしさが勝っていた。若かりしわたしは、完全に他人事なので教えてくれた友人と「やきにく~しっと~」という歌をこっそり歌うのがそのときのブームになったほどである。
さらに衝撃的だったのは、会社の駐車場での出来事だ。別の日、わたしと同僚は深夜遅くまで飲んで騒いだ後、駐車場へ車を取りに戻った。その駐車場は、坂を上った少し寂しい場所にあって、夜はひっそりとしている。月明かりに照らされた静かな夜の中、わたしたちは坂を上っていった。
そのとき、目の前に広がったのは信じられない光景だった。田中課長の車の隣に、山本さんの車がぴったりと並んで停まっているではないか。「え、これって…」お互いの顔を見合わせて、「これは、密会の現場に違いない!」と確信した。
課長とはやっぱり夜勤中に仲良くなったんだ、とか。だから山本さんは何も言わずに、すすんで夜勤を引き受けるんだ、とか。いろいろなことが一気に頭に浮かんできて、同僚と小声で話しをする。
わたしたちは、その場の様子を息を殺して見守ることにした。課長の車は空っぽで、山本さんの車には彼女が車内で待っているのが見える。どうやら、課長は仕事中で、山本さんだけが車内で待っているようだった。「どうする?あっちも気づいてるよね?」と囁き合ったが、好奇心には勝てない。結局、車の陰に隠れて、その場の様子をじっと見守ったのだ。
静寂の中、夜風が冷たく吹いていた。心臓がドキドキして、まるで映画のワンシーンにでもいるような気分だった。まさか、自分がこんな経験をするなんて思いもしなかった。
その後、課長が戻ってくることもなく動きがないので、わたしたちは何事もなかったかのように車のエンジンをかけ駐車場を離れ、無事に自分たちの車に乗り込んだ。あの夜からしばらく、同僚とわたしはその話をネタにして大いに盛り上がった。「課長のこと、○○くんって呼んでるらしいよ」とか「お互いどこに惚れたんだろうね」とか、話しが尽きなかった。この同僚とは仕事終わりに遊びに行くことを「今日密会する?」と度々言って遊んだ。若かりしわたしは、職場での恋愛が他人事なので、少しスリルを感じて面白かったのである。
田中課長と山本さんがその後どうなったのか、真相は分からずじまいだ。異動になったとか、奥さんにバレて離婚しただとか、いろんな噂が飛び交ったが、本当のところは誰も知らないままである。でも、あの夜の“坂の上の2台の車”が、わたしにとって職場でのちょっとしたスリルとドキドキを提供してくれたのは間違いない。
上司と若手新人部下の恋愛って、会社あるあるかな、なんて大人になった今はそう思う。一回りも年上の男性がカッコよく見える時期ってのもあるだろう。そんな男性も好かれるのは悪い気なんてしないし、女性の反応が可愛く見えるのもなんかわかるのは、わたしも年齢を重ねて大人になったからだろう。
これから先あなたも、いろんな場所で例えば田中課長と山本さんのような、想像できない不倫カップルに出会うかもしれない。そんなときは、よく観察してみてほしい。本当に幸せそうに見えるか?その笑顔の裏に、隠された負のオーラを見つけることができれば、あなた自身がその沼にハマることはないだろう。
特に女性側は「薄暗いじっとりとした」負のオーラが自然ともれ出るので、要注意だ。自分が本命になれない、嫉妬が女性を狂わすのだ!ニュースでそんな末路を聞くと、この話しを思い出すのである。
わたし自身も、過去に似たような例を他にも目にしてきたが、どのケースも婚期が遅れてしまったり、後悔の影がちらついていたのが印象的だった。それでも、彼女らはどこか幸せそうに振る舞っていたため、わたしはその場で「やめた方がいいよ」などと助言することはなかった。なぜなら自分にその正義感もなければ、他人の間違いを正す熱意もなかったからだ。要は他人事、そういうこと。
あとがき:恋の噂と駐車場の密会エッセイを書き終えて
この話しを通じて伝えたいのは、外見や言葉だけで物事を判断しないことだ。ときに、その裏には見えない葛藤や隠された意図があることもある。しかし、その真実に気づけるかどうかは、あなたの観察力にかかっている。外見や一瞬の印象は人を引き寄せるけれど、同時に誤解や期待を招くこともある。だからこそ、表面的なことに惑わされず、じっくりと相手を理解しようとする姿勢が大切だ。信頼を築くには、見えない部分にも目を向けることが重要なのだ。
わたしは今でも人間観察が好きで、日常のささいな変化や人の仕草から、多くのことに気づくことが多い。何気ない会話や行動の中に、その人の本音や感情が見え隠れする瞬間がある。それを見逃さずに感じ取り、その背景を想像することが、わたしの楽しみであり、人間関係をより深く理解するきっかけでもあるのだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!しばらくしたら更新するので、たまに見に来てくださいね。次回も、食品工場のちょっと変わった人間関係や、笑えるエピソードをお届けしますので、ぜひお楽しみにしていてください!