エッセイ「班長の恋心とコーヒー電話事件」食品工場で働いていたときの話し (1)

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ここから始まるエッセイは、わたしの話しを振り返りながら、日常の小さな出来事の中に隠された大切なことをお伝えしていこうと思います。これらの話しが、あなたの日々にほんの少しでも笑顔や気づきをもたらすなら、嬉しい限りです。それでは、どうぞお楽しみくださいね。

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班長の恋心とコーヒー電話事件

以前わたしは、食品工場で働いていた。今日は、そのときのちょっと面白い話をお届けしようと思う。そのときの姿は全身作業着にマスク、帽子、エプロンという完全防備で、手と目しか出ていない状態。まさに、正体不明といった感じだろう。それでも、どういうわけか、わたしはよく話しかけられていた。

次女として生まれ育ったわたしは、幼い頃から「にこにこする」ことが習慣になっていて、無意識にそれを続けていた。笑顔の力って不思議なもので、それだけで周りの雰囲気を和らげ、話しかけやすい人間に見えるらしい。

わたしは当時A工場で働いていて、B工場の課長さんがなぜか話しかけてくることがよくあった。課長とは業務上の接点がほとんどなかったため、特に何を話すわけでもなく、天気の話や世間話がメインだった。周囲の年配の女性たちは、「どうして課長があの子に話しかけるの?」なんて不思議そうに聞いてきたものだが、わたしは決まって「さぁ?」「むこうが話しかけてくる」と答えていた。

その理由は様々だろう、単に癒しだったり、からかいだったり、はたまた疑似恋愛みたいな感じだったり人それぞれ。ただ一つ確かなのは、わたしが「にこにこ」していることで、自然とそうした良好な関係が築かれていたということだろう。わたしに話しかけてくれる様々な人とは、業務の話だけでなく、世間話や時には遊びの誘いまで、いろいろな会話を交わした。わたしの工場ライフは、そんな人達のおかげで楽しいものになっていた。

その時期、わたしはとあるラインの班長(約10年上の男性)によく声をかけられ、ついには「美味しいカレーのお店でおごったあげる」と遊びに誘われた。おごってもらうんだから、ということで班長が見たいと言っている映画に付き合うことになった。行ったのは恋愛映画で、班長は感動して涙まで流していたが、わたしは「この人、意外と涙もろいんだな」と冷静に観察していたのを覚えている。正直、映画の内容はまったく記憶に残っていない。ただ、班長が感極まっている姿が妙におかしかったのだ。

わたしはただ、彼の不思議な行動を心の中で面白がりつつ、それからも笑顔を絶やさず対応していた。それがわたしがこの工場で円滑に働く術だったのだ。きっと、にこにこしていることで、班長もつい足蹴もなく通いその都度、話しかけやすくなってしまったのだろうと思う。

それからというもの、班長と何度か食事にも行くことがあった。だが、わたしには「足は軽いが、尻は軽くない」というポリシーがあった。つまり、誘いに軽く乗ることはあっても、そう簡単に心を開くわけではないのだ。その結果、班長はわたしにどんどん惹かれていったらしく、同僚に「彼女が好きだ、こんな気持ち初めてだ」と言っていたらしい。その話が回り回ってわたしの耳に入った時には、思わず苦笑いしてしまった。

ある休日、そんな班長から突然電話がかかってきた。朝早く、わたしがまだ布団の中でぐっすり眠っていた時のことだ。「コーヒーを1日に何杯も飲んでしまうんだけど、どうしたらいい?」と、なんともどうでもいい悩みを延々と話してくる。あまりにもくだらない話に、とうとうわたしの堪忍袋の緒が切れた。「なんで休日の朝にこんな話を聞かなきゃいけないんですか?いい加減にしてください!」と怒ってしまった。

いつもにこにこしているわたしが怒るなんて、相手にとっては相当ショックだったのだろう。班長は小さな声で「ごめん…」と言って電話を切ったが、わたしは全然気まずくならなかった。むしろ「わたし、怒ったけど正しいことを言った」と自信満々だったのだ。やっぱり、笑顔は人を引き寄せるが、誤解も招くことがある。そのことをこの一件で学んだのだ。

普段、工場では怒らないわたしが、休日に電話をかけられたことでキレてしまった。にこにこしているわたしに対して、周りは「この子は警戒していない」と勘違いすることが多かったのだろう。それに気づいてからは、笑顔を大切にする一方で、わたしなりの距離感を持つように心がけるようになった。にこにこしていると、どうしても「気を許している」と思われがちだ。しかし、笑顔の裏にはしっかりとした境界線があることを、相手に伝えるのは意外に難しいものだ。

わたしはこれまでに、笑顔のおかげで得をしたこともあれば、損をしたこともある。人間関係で大切なのはバランスであり、笑顔もその一つのツールに過ぎない。課長や班長とのやりとりも、その一環だったのかもしれない。どちらにせよ、わたしは笑顔でいることが好きだし、それが周りに与える影響も悪くはないと思っている。

さて、班長の話に戻ろう。ある日退職したのち、風の便りで聞いた話だが、彼が10歳以上年の離れた新入社員の女の子と結婚したそうだ。「どうせその子にも『こんな気持ち、初めてだ』なんてつぶやいたんだろうな」と、わたしはひそかに笑ってしまった。あの時の班長とのやり取りに、わたしが返事をしていたら…きっと同じようにゴールインしていたに違いない。班長は、にこにこしているわたしに親しみを感じたのかもしれないが、それ以上の関係にならなくて本当に良かったと今でもそう思っている。

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あとがき:班長の恋心とコーヒー電話事件を書き終えて

この話を通じて伝えたいのは、笑顔の力。笑顔は人を引き寄せるけれど、時には誤解されたり、変な期待を持たせてしまうこともあるのです。はたまた「無防備」に見られてしまったり、相手に勘違いされることもあったり。それでも、笑顔を忘れないことはとても大事。

にこにこしていると、自然と周りの人が話しかけやすくなって、新しい繋がりができることもあるのです。自分から話しかけるのも大事だけど、話しかけられやすい雰囲気を作るのはとてもいいことだとわたしはそう思います。ただ、その分「無防備」に見られてしまったり、相手に勘違いされることもあるので笑顔のふりまきすぎには気をつけてくださいね。

あなたも、日常の中で「にこにこ」を意識してみてください。きっと新しい繋がりが生まれ、思わぬ幸せが訪れるかもしれません。ここまで読んでくれてありがとうございました!また次回のエッセイも楽しみにしていてくださいね。次も面白い話を用意しているので、ぜひお楽しみに!

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